電波監理審議会付議第1号事件

主任審理官西本修一氏の忌避申立書


2007年5月24日

電波監理審議会 御中

                
異議申立人      草 野  利 一外114名

異議申立人ら代理人
                        弁護士 海 渡 雄 一

                         同  只 野   靖

                         同  村 上 一 也

申立の趣旨

主任審理官の西本修一氏を忌避する。

申立の理由

1 はじめに

 異議申立人らは、すでに2007年4月3日付意見書及び同年4月11日付意見書の2つの意見書において、概要、以下のとおり主張した。

(1) 主任審理官に指名された西本修一氏は、本件PLCの導入に深く関与しており、「職務上当該事案の処分に関与した」(電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則9条6号)者であり、また「審理の公正を妨げるような事情がある。」(同規則10条)から、同規則13条に基づき、本件の審理を回避すべきであること。

(2) 本件は、電波法87条但書に定める「事案が特に重要である場合」に該当することが明らかであるから、電波監理審議会は、主任審理官の西本修一氏の指名を取り消し、審理を主宰すべき委員を指名すべきこと。

(3)本件の事案の重大性に鑑み、審理を主宰すべき委員は、電波監理審議会の委員全員とすべきこと。 

 しかしながら、本日の審理においても、西本氏は本件の審理の回避を願い出ず、また、電波監理審議会も西本氏の指名を取り消さなかった。

 よって、異議申立人らは、西本氏について、同規則11条に基づき、西本氏について忌避を申し立てる。

 その理由は、上記2つの意見書に述べたほか、以下に述べるとおりである。


2 本件は電波法87条に定める「事案が特に重要である場合」に該当する

 電波法87条は、「審理は、電波監理審議会が事案を指定して指名する審理官が主宰する。ただし、事案が特に重要である場合において、電波監理審議会が審理を主宰すべき委員を指名したときは、この限りでない」と定めている。

 そして、本件異議申し立て事件はまさしく「事案が特に重要である場合」に該当する。このことについては、すでに、異議申立人らの2007年4月3日付意見書に記載したとおりであるが、念のため、再度述べておく。

(1)  第一に、問題となっている事案において問われていることは、我が国のアマチュア無線の存続そのものに直接影響を与える極めて重大な電波法上の処分の適否が争われていることである。そして、事件の内容において問われているのは、電波の割り当ての問題ではなく、アマチュア無線の通信が継続できるかどうかという、無線通信の死活的問題が問われているのである。このような意味において、本件処分による影響は極めて重大である。

(2) 第二に、関係する異議申立人の人数が114名と多数である。さらに、これによって影響を受ける利害関係人は、異議申立人だけではなく、我が国において免許を受けている全てのアマチュア無線家、短波放送事業者ならびに受信者、航空無線使用者、漁業無線使用者など、非常に多数かつ広汎である。

(3) 第三に、本件規則の制定に当たっては、情報通信審議会の議論を経ているけれども、その経過に重大な過誤があり、異議申立人らが実際に販売されている機器を用いた実験によって、その過誤が既に実証されていることである。

(4) 第四に、これまで販売されている国内メーカー製造のPLC機器においては、メーカーが自主的にアマチュア無線周波数帯に被害をもたらさないよう配慮して機器の仕様にノッチを組み込んできたこともあって,本件規則の瑕疵は顕在化しなかった(ただし、それでも、少なからぬ影響は避けられない)。しかし、本件規則の瑕疵は、このようなメーカー側の配慮によって治癒されないことは当然であり、メーカーがそのような配慮をしなければ、ただちに顕在化するものである。現に、平成19年3月末に販売が開始されたロジテック株式会社製及び光ネットワークス株式会社製のPLC機器は短波放送帯についてノッチがなく、同放送の聴取は極めて困難な事態となっている。しかも、ひとたびこのような事態が生じた場合、屋内で運用されている他者所有のPLC機器を特定することは極めて困難であり、事実上、被害の回復は困難となる。このような回復困難な被害が一挙に現実化しようとしているのである。

(5) 第五に、本件は、その及ぼす影響が甚大であり、迅速な判断を審議会全体で議論して速やかに判断する行う必要がある。審理官による審理では、審理官のまとめた意見書に基づいて審議会の議論をせざるを得ない。しかし、本件総務省令改正を主導した官僚に委ねていたのでは、適切な判断が不可能であることは明白である。

(6) 第六に、電波監理審議会の任務は、電波の公平な利用に帰着するが、長い電波行政の歴史において、電波利用に対する受忍できない継続的妨害を引き起こすような機器を認可した例は皆無である。他の認可された通信が困難になるような電波利用を認めた前例がないのである。総務大臣が認可した電波法の免許事業者の通信ができなくなるという深刻な危機を、総務省自らが創り出すという異常な状況が生み出されているのであって、このような極めて特異な事態は直ちに是正されなければならず、それがされなければ電波監理審議会の委員全員の見識が問われる。

(7) 第七に、審議会の委員の方々には、メーカーは総務省令において義務づけられていないのに、なぜ自主的にノッチを入れているのかという点について深く考えて頂きたいということである。総務省令の定めたPLCの許容値に問題がないのであれば、ノッチを入れる必要はないはずであるのに、なぜ先行国内販売メーカーはこのような設計を採用したのか。それは、総務省令の定めている許容値が不十分であり、アマチュア無線等の通信妨害となることをメーカーは知っているからである。

(8) 最後に、このような電波環境の未曾有の危機を救うためには、審議会・委員みずから前に乗り出し、審議会本来の機能を発揮し、誤った総務省令とこれに基づく型式指定を取り消して頂きたいのである。

3 西本修一氏が、本件PLCの導入に深く関与しており、「職務上当該事案の処分に関与した」(電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則9条6号)者であり、また「審理の公正を妨げるような事情がある」(同規則10条)ことについて

  異議申立人らは、平成19年4月3日付意見書において、本件異議申立事件の審理を主宰すべき委員は、電波監理審議会の委員全員とすべきである旨の意見を述べていたところ、電波監理審議会は、既に平成19年3月28日、持ち回りにより、本件審理を主催する審理官として西本修一氏を指名していたようである。その後、西本修一氏は、異議申立人代理人らに対して、同年4月4日、「電波監理審議会審理開始通知書」を送付し、自らが本件審理を主催することを明らかにした。

  しかしながら、西本修一氏は、以下に述べるとおり、本件PLCの導入に深く関与している。西本氏は、「職務上当該事案の処分に関与した」(電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則9条6号)者であり、また「審理の公正を妨げるような事情があ」り(同規則10条)、西本氏が本件の審理を主催した場合、「審理の公正が確保できない」(同規則第13条第1項)ことは明らかである。

(1) 西本修一氏は、平成18年7月21日に、総務省人事により、「(電波監理審議会)審理官」に任命された。なお、西本氏は、前情報通信政策局宇宙通信政策課長であったところ、審理官に異動となったものである。

(2) ところで、本件PLCを可能とした無線設備規則の一部を改正する省令案については、電波法第99条の12第1項の規定により、平成18年8月23日に、意見の聴取が行われたが、同意見の聴取を主催した人物が、審理官であった西本氏である。

(3) 上記意見の聴取においては、合計7名が利害関係者として意見を述べた。2者が賛成の意見を述べたが、5者は導入に反対の意見であった。なお、本件異議申立人である草野利一氏も、審理冒頭に反対意見を述べたものである。

(4) 同意見の聴取において、草野氏は、本件PLCの導入に反対する立場から意見を述べ、その後、質疑応答の際、参考人として出席していた総務省の前電波環境課長であった富永昌彦氏が答弁に立ち、あいまいな返答に終始したため、草野氏が明確な返答を求めたところ、富永氏は、「そんなに熱くならないで下さい」と述べるなどして、明確な返答をすることはなかった。審理官であった西本氏は、その一部始終を見分していたものであるが、富永氏に対して答弁を促すことなく、結果として、草野氏の反対意見を遮ったことがあった。なお、上記4月11日付意見書(5頁)においては、西本氏が、草野氏の反対意見を直接遮ったと述べたが、正しくは上記のとおりであるので、訂正する。

(5) その後、西本氏は、自らの名義で、平成18年9月13日付意見書(資料1)を提出した。同意見書において、西本氏は、本件PLCについて賛成する立場から、「無線設備規則の一部を改正する省令案は、適当である」との意見を述べ、その理由について、概要、以下のとおり述べている。

@ 今回追加される規定における許容値は、「他の通信に絶対に妨害を与えないことを保証するものではなく、他の通信に有害な妨害を与えない限りにおいてここまで許容する」という性格のものであると考える。総務省も回答の中で「欧米でもそうであるが、技術基準を守れば、絶対に混信が起きないというようなものではない。」と述べている。例えば米国のFCC規則で、「本パートで規定された限度値を守ったとしてもすべての状況下で有害な妨害を防止できるとは限らないことに注意しなければならない。」と定めているのと同様と考えられる。なお、答申で示された許容値は、測定方法が異なるため一概には比較できないが、米国の規格と比べて厳しく設定されているものと考えられる。研究会や情報通信審議会での検討経緯を見ると、許容値については、より高速の信号伝送を可能とするために電波の漏えいをできる限り許容すべきという意見、それとは反対に、無線利用システムが受ける妨害を極力排除するために電波の漏えいをできる限り制限すべきとする意見、両者の中間的な値にすべきとする意見など様々な意見が出され、考え方の乖離は非常に大きいものであった。今回意見の聴取で述べられたような厳しい許容値を求める意見は、研究会や情報通信審議会情報通信技術分科会CISPR委員会でも、構成員からの意見やパブリックコメント、関係者からの意見として主張されたが、それらの意見を聴取した上で審議が行われ、情報通信審議会から答申が出された。妨害を受ける側の意見を全て受けいれれば限りなく厳格な許容値になることが想定されるが、先ほど述べた今回追加される規定の許容値の性格を勘案すると、妨害を受ける側の要求が完全には満たされたものでないにしても、1項で述べたように必要な手続きを経て適切に運営され、両者の意見を踏まえた上で出された情報通信審議会の答申は尊重すべきものと考える。」

A 「高速電力線搬送通信は、情報通信インフラのブロードバンド化が進展する中、屋内で既存の電力線を使用することにより、容易なネットワーク構築に資するものであり、その導入を可能とする無線設備規則の改正の意義は認められる。また、今回の意見の聴取に際し、高速電力線通信推進協議会及び(社)日本アマチュア無線連盟から賛成意見(要望あり)が出されている。意見の聴取では、欠席者2者を含む5者からの反対意見も表明されたが、無線設備規則は今回追加する規定以外にも、混信等の除去のための措置を講ずる義務を定めていること、電波法では技術基準への適合性に加え、他の通信に妨害を与えないと認めるときにこれを許可することとされているなど、電波法全体でみると混信や妨害に配慮した体系となっていること、万一混信等が生じたときに対応する措置も電波法に規定されていること、及び、上記1項から5項で述べたことを総合的に勘案すると、情報通信審議会の答申を尊重することが適切と考えられる。よって、今回の無線設備規則の改正案は、情報通信審議会答申「「国際無線障害特別委員会(CISPR)の諸規格について」のうち「高速電力線搬送通信設備に係る許容値及び測定法」についての一部答申」に従って適切に規定されており、また、これまで3項から5項で述べた以下の点に総務省が配意することにより、電波監理上特段の支障は生じないと考えられることから、本件諮問に係る無線設備規則の改正案は、適当と認められる。」

(6) 以上のとおり、西本氏の意見は、「適当と認められる」というあいまいな言葉で、実質的な理由を全く示すことなく、結局本件PLCを導入せんとする総務省の意見をそのまま追認したものに過ぎないものであった。

(7) そして、平成18年9月13日に開催された電波監理審議会(第909回)では、西本修一氏がとりまとめた意見書等に基づき審議がなされ、本件PLCが解禁されたのである(資料2)。

(8) このような審理官が、本件を担当することになれば、その結論は火をみるより明らかである。

4 結論

 以上のとおり、西本氏は、本件PLCの導入に深く関与しており、本件処分の前提となる規則制定のまさに当事者と言うべきである。

 本件を電波監理審議会の委員が審理するのではなく、西本氏に審理させるとすれば、裁判手続になぞらえていうならば、1審判決を行った者が、2審の裁判を行うがごときものである。

 このような措置は、電波監理審議会の不服救済機関としての自己否定に外ならず、不服審査機関の第三者性を確保するという近代的な不服救済制度の根本を否定することとなり、「法の適正な手続き」(due process of law)を定める憲法31条にも悖ることが明らかである。

 西本氏の人選は、総務省が主導したものと思われるが、本件PLCが導入された経緯をみれば、いかにも偏頗であり、公正性を欠如した対応であると言わざるをえない。

 以上の経過からすれば、西本氏は、自ら「電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則」第13条1項に基づき、潔く本件からの「回避を願い出」るべきであった。

 そして、電波監理審議会は、異議申立人らの前掲2つの意見書を踏まえ、西本氏が自ら回避を願い出ない以上、このような偏頗で不公正な対応を正すべく、西本氏の指名を自ら取り消すべきであった。その上で、電波法87条但書に定める「事案が特に重要である場合」に該当するとして、電波監理審議会が審理を主宰すべき委員として委員全員を指名するべきであった。

 しかしながら、西本氏も電波監理審議会も、本日まで、このような対応を採ることなく、今日も、本件の審理を強引に進めようとしている。

 よって、異議申立人らは、本日、西本氏について、「審理の公正を妨げるような事情があ」るから(電波監理審議会が行う審理及び意見の聴取に関する規則10条)、同規則11条に基づき忌避を申し立てる。

 本件忌避申立により、本件審理は停止され、電波監理審議会による審査が行われるものと思われるが(同規則12条)、異議申立人らは、当事者として、電波監理審議会の場における忌避の当否の審査に出席して意見を述べる機会が保証されるべきである。

なお、電波法は、このような重大案件について自ら審理を主宰することを正面から認めている。電波監理審議会の委員に、もし不服救済機関としての矜持があるならば、本件忌避を認め、主任審理官の西本氏の指名を取り消し、電波監理審議会が審理を主宰すべき委員として委員全員を指名するべきである。

以上

添付資料

1 平成18年9月13日付主任審理官西本修一氏の「意見書」

2 電波監理審議会(第909回)議事要旨