東京高裁控訴審、第1回目公判
               
               意見陳述


                     原告団長 草野 利一
 
    註)陳述時間の関係上、以下の4)の黄色部分は陳述時には割愛している。

 私はアマチュア無線局JA1ELYの免許人草野利一です。私は原告団長として以下意見陳述を行います。

 そもそもPLCとは、家屋内の電力線に高周波電流を流して高速電力線搬送通信を行うというもので、その原理からして、これにより生じる雑音電波は他の通信業務に深刻な悪影響を及ぼすものです。私たちは、そのようなPLCが認可されるという驚くべき計画が発表されて以来、一貫して、PLCによって生じる雑音電波がもたらす無線通信業務等への深刻な悪影響を阻止するための行動を続けて参りました。、総務大臣がPLCの型式認定を行って以降、我々は東京地方裁判所に対して差止請求訴訟を提起し、その訴訟において、電波監理審議会での審議を先行させるべきであるとの判決が確定すると、審議会での審議を受けることとなって現在に至っています。最初の提訴から数えると、間もなく7年が経とうとしています。

 我々は、総務大臣が許可したPLCの技術基準では、電力線から漏洩する雑音電波が無視できないほど強く、年月が経つにつれ累積効果により短波帯の雑音電波のレベルが上昇してアマチュア無線通信が困難に陥ると考えています。以下にその理由を述べます。

1)『情報通信審議会』の進行プロセスで重大な問題が未決である。

 総務省のPLCに関する研究会では、一般家庭の屋内配線を模したモデルを作成し、雑音電波の放出量を数値計算しました。その結果得られたのはコモンモード電流で30デシベル・マイクロアンペアという許容値でした。しかし情報通信審議会のCISPR委員会で実際に実験した結果、この値では当初の目的の通信業務とは共存できないとし、15MHz以上の周波数について10デシベル減らすことになりました。

 科学的に考えれば、あるモデルを作成して検証した結果、現実の状況と異なったのですから、モデルを作り直して再度検証することが必要です。しかし、この許容値は、数回のテストだけで科学的な根拠もなく10デシベル下げると決定されています。これでは、基準の基になったモデルは否定されたままです。すなわち、他の周波数や、他の場所、他の状況では、このモデルが当てはまるかどうか分からないままです。モデルでの基準策定を放棄するとすれば、統計的に有意なサンプル数を得るだけのケースのテスト結果を得なければ、妨害電波が出る頻度を抑えることはできません。

 今回は技術的見解の異なるモデルでの基準値策定をするでもなく、また実地テストでの経験を積み重ねるでもなく、初めに許可ありきとばかりに、何らの科学的データにも基づかず基準値を策定し直しています。これはとても合理的な対応とは思えません。

 PLC研究会の議事録には記載がありませんが、研究会の最後に座長は「妨害が出ない値を許容値とすればPLCは実現できなくなる」と述べました。なぜ実験測定用の2モデルが作り直されなかったのか、なぜテストが繰り返されなかったのか、その答えは正にこの座長発言にあります。つまり共存ではなく、PLCの実現が前提の許容値であり、その理由付けのために、モデルが作成され、テストが実施されたということになります。座長自らが、共存ができないことを示唆しているのです。

2)電波環境を悪化するものであり電磁妨害波の特定と除去は困難である。

 都市部や住宅地域には自然界の雑音の他に多数の電子機器、電気製品からの電磁妨害波が存在しています。たとえ個々の機器が基準を守っていたとしても、多数の機器が同時に稼動すれば、結果としてノイズレベルの高い時間帯では現在でも通常の無線通信ができないほどの妨害波が飛び交っています。多数の機器が稼働して妨害波が増えているならば、個々の許容値を小さくして電波環境を護るべきCISPR委員会が、現状追認の認識であるとすれば、その存在意義そのものが問われてしまうことになります。

 本来、電波行政がこの状況について対策をとらなければならないにも関わらず、今回の研究会では平然と、妨害波は増大しているので、国際的な基準ではなく、実際の測定値を使うべきであると取られる意見が示され、実際に採用されています。これはまさに行政機能の放棄です。

 総務省は、PLCからの雑音電波によるアマチュア無線業務への実害の報告は無いとしていますが、それはPLC製造者が妨害波が出ることをあらかじめ把握していて、自主的にノッチフィルターを挿入しているからに過ぎません。その証拠に実験によりノッチフィルターの前後の周波数帯を調べると明確に強い雑音電波が確認できます。

 総務大臣による認可基準では、ノッチフィルターを入れる必要がないのですから、総務大臣は、PLCから強い雑音電波が出る状況を野放しにしてしまっているのです。PLC製造者が自主的にノッチフィルターを入れない限り、実害が生じてしまうような状況は直ちに是正されなければなりません。ノッチフィルターを入れないことによって、PLCの通信スピードは向上するのですから、今後ノッチフィルター無しの機器が販売されることも十分あり得るのです。

 さらに、実際に稼動しているPLCからの妨害波の出所を特定して防止することは実質的に極めて困難です。PLCの雑音波には識別符号がなく発生源を特定できないからです。

 PLCについて考えれば、他に代替手段が十分にあるのですから、他業務に深刻な被害を与えてまで使用するべき物ではないのは明らかです。

 世界で初めての規範を求めるという基準値を定めるのですから、議論になった両モデルの実証・実験値を出し、それを比較し、将来性を加味し、その妥当性を比較検証するステップが当然必要となってきます。今回は、そのステップを全く欠いてしまっているのです。

3)『電波監理審議会』から総務大臣への要望が配出されている。(今回事案に対する国民への最終的なメッセージである)

 6年にわたる異議申立の審議の結果、電波監理審議会は我々の異議申立を棄却しましたが、電波監理審議会の総務大臣への意見として、6項目の要望を述べています。そしてその後それらの要望は一切考慮されていないのは甚だ遺憾です。これでは審議会制度の存在意義はなくなります。

 電波監理審議会の要望は、「PLC機器から流れ込むコモンモード電流のみの規制では、電力線上で発生する漏洩電波を確実に一定レベルに規制することができない可能性がある」ことから、ノッチフィルター内装の有効性、必要性を検討し、その正当性につき一定の判断を行うよう」求めるものです。

 これは、審議の原点に戻り、「ノッチフィルターを前提とする規制のあり方が国の基準として担保できるのかについて改めて検討せよ」との示唆を行政当局が認めたものです。ところが総務大臣は、このような要望を審議会が明示して行ったにもあるにも拘わらず、その後の検討を全く行っていないのです。

4)屋外利用の技術基準設定も安易に行われた。

 昨年9月、PLCの屋外利用の技術基準が設定されました。遮蔽効果が屋内基準の10分の1です。

 屋内基準を決めたとき、モデルケースでは壁の遮蔽効果を10分の1と見込んでいます。屋外であるから10分の1で一見正しい様にも見えますが、屋外ということは個々の家の敷地境界まで発生原因になる電力線やPLC装置が壁の外に伸びるということです。つまり「離隔距離」は、家の壁から露出する電力線ケーブルによるので、大きく変動するのです。10分の1では全く過大な許容値になってしまいます。このような安易な許容値作りが電波の番人である総務省で行われていることはまったく驚愕です。

 既に述べた通り、屋内でも屋外でも許容値の検討はあまりに安易であり、事業者優先で科学的根拠に基づくものでなく意図的な審議を続けたのであり公平なものでありません。


5)そもそも電波とは、電波法とは。

 電波は目に見えません。受信機がなければその存在も分からず、周波数や電波形式、時間帯、全てが揃わなければ、誰が何のために電波利用を目的としているかも分かりません。
 その電波を規制するのが電波法の役目です。電波資源は有限で、有用で、生命財産の保全に役立つからです。しかし、前述の様にとらえどころのない電波を実質的に規制するのは困難を極めます。だからこそ、あらかじめ規格を決め、関係者の利害を調整し、妨害が起きないように対応をとって、実際に使う人の遵法精神によって秩序は維持されています。これが型式認定制度であり、その基準を創るところにあったのです。

 PLCでは「妨害が出たら対応するから、この許容値で良い」と、明らかに妨害が発生する出力で許容値を決め、あらかじめの調整を放棄しています。しかも個々の免許ではなく、型式指定で、どこで、いつ、誰が使用するか分からない個々の機器に対してです。「妨害が出たら」という考え方は従来の電波行政の全否定につながる考え方であり、大変な矛盾を含んでいます。
 今回のPLCからの妨害波許容値は、このように関係者の不断の努力で保たれている電波の秩序に対する大きな挑戦です。残念ながら、この状況を是正できるのは今や司法の力だけです。

6)「組織内である監理審議会」外の裁断を求めたい。

 今回の提訴にあたって、原告である我々は、被告行政内の『電波監理審議会』のプロセスを経てきました。が相手土俵で相撲を取っているようなものであり、電波の自然環境を守ろうとする我々原告団の「意」が十分にくみ取られることはありませんでした。かろうじて、電波監理審議会の総務大臣への要望として、「PLC機器から流れ込むコモンモード電流のみの規制では、電力線上で発生する漏洩電波を確実に一定レベルに規制することができない可能性がある」ことを指摘し、「ノッチフィルター内装の有効性、必要性を検討し、その正当性につき一定の判断を行うよう」求めることが、同一組織内における限界であったのだと思います。

 本件は、これまで長年にわたって続けられてきたアマチュア無線通信に、深刻な影響を及ぼすもので、その被害の範囲も甚大なものです。そのため我々は、「組織内である電波監理審議会」外で、高所からの裁断を切に求めたいのです。
                                  以上