PLC異議申し立て電波監理審議会
異議申し立て第10回審理(国側証人
杉浦行氏の主尋問・反対尋問)
参加記
草野 利一
平成21年7月22日開催PLC型式指定異義申立第10回審理について報告致します。

総務省10階の電波監理審議会異議申し立て審理会場
定刻午前10時、佐藤主任審理官により開会が宣言され審理開始。弁護団が本日の参考人尋問でノイズ実験の様子を記録した証拠のCD−ROMを聴いて貰いたいと申し出ると、この場での試聴は調書化できないのでダメとの事。

審理がはじまるまえの会場の様子。申立人側、手前前列から只野弁護士、北川大阪大学大学院教授、青山東京都市大学教授、村上弁護士、海渡弁護士。壁側の左から二人目は土屋原告。
海渡弁護士が、この実験の模様は被害の実情を理解して貰う為にて重要なものなので是非聴いて頂きたいと主張。結局、証人尋問での証拠(調書化)しないということで許可されました。
杉浦行(読み アキラ)参考人に対する尋問が始まりました。佐藤主任審理官が全員の起立を促し、杉浦参考人が宣誓書を読み上げます。
「宣誓。良心に従って、何事も隠さず、何事も付け加えないことを誓います。平成21年7月22日。杉浦行。」
国の熊谷代理人が杉浦参考人に対する主尋問を行います。型通り、参考人の経歴及び専門分野についての質問から始まります。
主尋問はいわばできレースみたいなもので、PLC規制値答申の合理性についての質問と答弁を1時間半に渡って繰り返し、特に目新しいものはありませんが、杉浦参考人は追加の共同実験は必要ないと答えていました。
蒸し返されるのがよほど嫌なんでしょう。又、国の主尋問で、CISPR規格はEMCを解決して貿易の振興をはかる為にあると答えているのですから、中立とは名ばかり、業界/行政寄りは明らかです。
11時40分、国側主尋問終了。佐藤主任審理官より休憩してはとの問いかけがありましたが、申立人側は引き続き予定の12時までの反対尋問を希望。気合いが入っています。
申立人側の反対尋問は只野弁護士です。只野弁護士は今回のような電気工学、無線工学についての弁護活動は初めてで、本尋問を行うに当たって弁護団は青山、草野、土屋の申立人、そして学術専門家を交えて何回も勉強会を重ねました。その結果、我が国のEMC行政分野では最も国から信頼されていて学会では極めて大きな影響力を持つEMCの専門家、杉浦参考人を追いつめ、独りよがりの極論、暴論を大勢の前でまくし立てさせることが出来たと思っております。
杉浦氏はまさか自分の誇るべきPLCの業績について、法廷(異議申立審理は準司法扱い)で厳しく尋問されるなどとは予想もしなかったことでしょう。尋問は聞かれたことについてのみ答えるだけで、言い訳や自分の考えや主張を述べることは出来ません。核心に迫る質問では、顔を紅潮し、手を震わせながら必死に答えている様に見えました。
後日正式な議事録が出てくるはずですので、入手次第公開致します。ここでは反対尋問のごく一部を複数者のメモを元に記します。但しメモですから正確なものではありません。
Q:只野弁護士発言、A:杉浦参考人発言
Q:乙4号証に示されている複数の文書で、情報通信審議会、CISPR委員会、高速電力搬送通信に関する研究会報告書、PLC公開実験結果報告、許容値の見直し等が多数引用されていますが、杉浦さんはこれら全てに主査として関与していますね。
A:結構だ。
Q:PLCは短波帯の全ての帯域で漏洩を起こしますね。
A:基本的にはそうだ。
Q:共存という言葉の意味は何でしょう?
A:希望波があり、それに対してある受信者が居て、その受信を妨害するものを受信障害と言う。共存とは、PLCを利用すると生じる受信障害を出来る限り減らすことだ。
Q:出来るだけ減らすとは何パーセントかの障害が出てもかまわないということですか?
A:特には考えていない
Q:え、考えていないんですか?
A:重大かつ継続的な障害が起らないようにだ。何パーセントということは関係ない。
Q:何パーセントです、8割ですか?
A:いや何割とも考えていない。
Q:考えていないんですか?
A:重大かつ継続的な障害が発生しない。なぜかと言うと我々はCISPR規格で検討している。CISPRでは重大かつ継続的な障害はそれほど起っていないと確信している。
Q:重大かつ継続的な障害は殆ど起きないというレベルのものでしょう?
A:そう思っている。
Q:そうしますと色々な所で引用されていますけど、例えば99%起きないとしても良いんじゃないですか?
A:いやいや、そんなことではない。
Q:杉浦さん自身の私見でかまいませんけど。
A:私見とかということではなく、私はそう思っている。なぜかと言うと、受信障害とは希望波と、それから希望波のレベル、PLC妨害波のレベル、それと周囲雑音のレベルと3つの相関関係、その他にそこにある希望波を受信する人が居るかいないかという話だ。そこまでを含めて始めて受信障害の発生と言えるので、何もわからないのに何パーセント等という生半可な数値は我々には出せない。
佐藤主任審理官:もうその辺でいいじゃないですか。見解の相違になりますから。
以下略
12時となり、ここで昼食、休憩。
13時15分、再開。午後の尋問は主にPLCの技術的な疑問点、問題点、周囲雑音、規制値など多岐に渡り行われました。ここでは全て割愛しますが、杉浦氏が中立の立場で進めたと言いながら、無線ユーザーのことはあまり気にしていなかったのでがないかと思わざるを得ない点がありますので、その辺りを抽出して記します。
ここも複数者のメモを元に整理していますので、正確なものではありません。
Q:建物の遮蔽効果を考える際、なぜ商業地は全てコンクリート造りと仮定したんですか? 地方の商業地は木造家屋が多いですよ。地方のことは考えていないんですか?
A:考えていないかも知れない。
Q:木造家屋が商業地にあるとすれば、その場合の許容値はより厳しくなるのではないですか?
A:そう仮定すれば、そうなる。
Q:採用された周囲雑音レベルは高過ぎないですか?
A:そうは思わない。
Q:ITU-Rの住宅環境の周囲雑音レベルが妥当なのではないですか?
A:そうは思わない。ITU-Rの雑音レベルは人工雑音だけで、測定方法が違う。
Q:研究会で測ったYRPの周囲雑音にくらべ、同じ場所での土屋氏の測定結果は非常に低いです。同じ場所なのになぜこんなに値が違うのですか?
A:測定方法が違うからコメントできない。
Q:双方が合意した方法で測らないと周囲雑音は決まらないのではないですか?
A:合意が取れた方法でなければ意味はない。どうぞおやりください。
Q:モデルが間違っていたのでは?
A:そうではない!
Q:ノッチを入れないとダメなのではないですか?
A:欧州のPLCメーカーが提案している。送信レベルを高くするためだ。
Q:日本で今市販されているPLCモデムの殆どにノッチが入っているのは分かっていますか?
A:知っている。
Q:杉浦さんが定めた許容値は満たしている訳でしょう。
A:そうだ。
Q:どうして入れるんですか?
A:それは業界の判断だ。我々は必要ないと思っている。
Q:業界がわざわざお金をかけて余計なことをしている訳でしょう。なぜです?
A:それは、色々な防御策ではないか。
Q:杉浦さんが推奨してまとめた許容値では他の無線通信に妨害を与えると判断しているからではないですか?
A:予防措置としての許容値だから、希にそういうことが起きる。
Q:そういう事は聞いてません。もう一度聞きますよ。業界がノッチを入れているのは、杉浦さんが中心になって作成した許容値の通りで設計して作っても、他の無線通信に妨害を与える恐れがあると業者が判断しているからではないですか?
A:私はそうは思っていない。
Q:では何でだと思いますか?
A:知りません。メーカーの判断でしょう。
Q:メーカーに聞いてくれということですか?
A:そうだ。
Q:杉浦さんは、何でそういうことをしているんだとメーカーに聞かれたことはありませんか?
A:聞いていない。
Q:自分が定め許容値がどういう風に運用されているかには興味はないですか?
A:それは低い方に行く分についてはある。
Q:それは当たり前でしょう。
Q:(ソニーの携帯短波ラジオで録音した妨害音を聞かせる) これは千葉県佐倉市の住宅地でのPLCの漏洩実験ですが、短波放送が聞こえなくなりますね? なぜでしょう。
A:信号レベルはいくらの電界強度か? 通常ではITU-Rでは40dBuV/mを基準の電界強度にしている。
Q:質問に答えてください。最初短波放送が聞こえていたでしょう。それが聞こえなくなるでしょう。なぜですかということです。
A:PLC妨害波が周囲雑音と同じとなったか高かったからだろう。あるいは希望波が弱いからだ。
Q:周囲雑音レベルの話じゃないですよ。
佐藤審議官:質問はね、影響があるとすればね、どういう影響でそうなったかと聞いています。
A:それはPLCのノイズ、漏洩ノイズだ。
Q:そうするとPLCの技術基準を満たしているPLCであっても、他の無線に対してこういった影響はあると認めるのですね。
A:今の例に従えば、そうだ。
Q:このような結果が出た理由については、コモンモード電流として設定した許容値の前提となっている周囲雑音レベルの設定がそもそも高過ぎたのではないかという点が指摘できると思いますが、このことは杉浦さん否定されますか?
A:これだけではわからない。周囲雑音レベルは家屋によっても違うし、それから家の中で使われている電気器具によっても違う。
Q:もう一つの理由として、コモンモード電流の設定法に欠陥があって許容値を大幅に超えていて、その為に想定している漏洩電界強度を超えているのではないかという点も指摘できると思いますが、否定できますか?
A:そういうことは無い。
Q:無いと否定するのであれば、今聞いて貰ったような短波放送が聞こえなくなった様な現象は起きないと思いますが?
A:規制値を満足することは予防措置としてやっていることで、そういうことが起きることは否定しない。
Q:この実験結果を見て、杉浦さんは自身これはまずいなとは思わないですか?
A:思っていない。
Q:このような結果を回避する為には、周囲雑音を誰もが納得出来る値に定め、PLCから発生するローンチドコモンモード電流を制限して、さらに電力線でディファレンシャルモード電流から発生するコンバーテッドコモンモード電流を抑制するためにデファレンシャルモード電流も制限するしかないのではないですか?
A:考え方は色々あるが、私はそれにはくみしない。
Q:少なくとも私が今述べた方法だったら、こういう結果を回避出来る可能性があるんじゃないですか?
A:今の方法でもディファレンシャルモードの電圧は規制している。実際測ってみればだいたい分かる。どこのメーカーも同じだ。
Q:そのディファレンシャルモード電流が高過ぎるから、屋内の配線でコンバーテッドされる訳でしょう。コモンモード電流が高いかも知れないと言っているんですよ。予防する為にはディファレンシャルモード電流をもっと下げなければいけないんじゃないかと聞いています。
A:そういう見解があるのは分かるが、私はディファレンシャルモードを規制する必要性を感じない。
Q:聞いて貰った実験について、これは我々の実験ですから、ここでの特有の問題があるのかも知れないということ杉浦さんは言っていますが?
A:今の例はそういうことでだ。
Q:そうであれば双方が納得出来る条件の下で共同実験するしか解決方法はないんじゃないですか?
A:私はそう思っていない。やっても意味がない。受信障害とは信号レベルと周囲雑音とPLC漏洩波、その大小関係で決まる、そしてそこに受信者が居るかどうか、そういうことを考えて設備規則が決まっている。
Q(海渡弁護士):意味がないと杉浦さんは言いいますが、同じ様なポイントでこちらが選んだ3カ所、国が選んだ3カ所の全部で受信障害が起きたらどうされますか?
A:そういうこともあるかも知れない。
Q:それはおかしいですよ。
A:どうしてか?
Q:受信障害が起きない様にと作ったのに、どこでやっても受信障害が起きるなら技術基準が間違っていることになるのではないですか!
A:そんなことはない。間違ってはいない!
Q:そういう考えなんですね。これで終わります。
佐藤主任審理官: PLCの許容基準を決めるのは他の無線利用者と共存をするためですね。最終的な目標は共存です。話を伺っていると、どういう許容値をどういう方法で測定したら良いかというのは、コモンモード電流を測るということだと分かりましたが、その理論値あるいはモデルが正しいかどうかは実際の家で確かめる必要があるのではないか。理論値を定めるのは研究会の目標ではないはずで、共存出来るかどうかですね。伺っていると、出ることがあってもそれはしょうがないんだという風に聞こえますが、その辺はどうですか?
A:基本的にこれまでの許容値を利用している。それが最大の寄りどころだ。それと世界の許容値より低い。
佐藤主任審理官: 共存状況を把握して、必要に応じて見直しを行うと答申にありますね。研究会でも完璧だとは思っていないということかですか
? どういう場合に見直すのですか?
A:一つはCISPR規格が変わった時。もう一つは障害が多く出た時だ。見直しするかどうかは総務省の判断による。総務省の依頼があればCISPR委員会で見直しの議論をすることになる。
ここで終了。次回は10月7日10AM〜5PMまで、異議申立人側の申請した参考人尋問が行われます。
PLC行政訴訟事務局
JA1ELY草野
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