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 PLC行政訴訟・異議申し立て
 その後について


          JA1IDY 青山貞一
          武蔵工業大学環境情報学部教授 

          初出:月刊ファイブナイン2008年3月号
          本稿掲載月日:2008年2月28日
 
 総務省の省令改正によるPLC型式指定への行政訴訟と電波監理審議会への異議申し立てについて、その後の概要を報告したい。

1.PLC行政訴訟

 私も公述人として参加し2004年に改正された「行政事件訴訟法」では、国相手の差し止め請求(仮処分、本訴)が、新たな類型として認められた。

 だが、なぜかいくつかの行政分野では、実質的に証拠取り調べで重要となる第一審での司法的救済が受けられない異常な状態が継続している。

 いくつかの分野として明らかになっているのは、公正取引委員会や電波監理審議会である。

 これら一部の行政分野では、第一審段階、すなわち地方裁判所に差し止め請求や処分取り消し請求を提訴することが出来ない。結果として、行政への不服審査として公正取引委員会や電波監理審議会に異議申し立てすることとなっている。

 同じ行政訴訟でも地方自治法による住民訴訟では、いきなり地方裁判所への提訴はできないものの、監査請求を自治体に提起し、結果に不服がある場合には、初審、すなわち地方裁判所への提訴が可能となっている。

 PLC行政訴訟では、初審として東京地方裁判所に差し止め請求、次いで処分取り消し請求(いずれも本訴)を提訴したが、地裁の判事は、提訴を却下し、控訴審の東京高裁でも地裁判決を追認し私たちの訴えを却下した。

 現在、最高裁に上告及び上告受理申立を行っている。このこと自体、きわめて異常なことである。

 というのも、これらの行政分野では、行政が行っていることに疑義があるとして、国民が司法に提訴していているにもかかわらず、行政処分を行った行政機関が準司法のなのもとに、第一審に代わり司法審査をしているからである。

 しかも、この「準司法」手続きとしての電波監理審議会での異議申し立て審査が終了すると、地裁ではなくいきなり高裁送りとなる。

 司法審査でもっとも重要な各種証拠の取り調べを行うのが初審であるが、自治体などでの過去の多くの例から見て行政不服審査で本格的な証拠取り調べが行われることはまずない。

 2004年の改正行政事件訴訟法では、国相手の差し止めを訴訟類型として認めている。事実、各種の逐条解説にはどこにも電波法関連事件では一審での裁判を認めないと書かれていない。

 結果として私たちのPLC行政訴訟がこれの意味するところは、現状では電波法分野では司法救済が求められないということである。

 改正行政訴訟法そのものが機能不全を起こしているということである。もっぱら、公取委分野では、行政が司法に代わり司法審査を行っている状況への反省から、今後、一審段階から地方裁判所への提訴が可能となることになり、公取委への異議申し立ては今後なくなるとのことである。

 これは至極当然のことであるが、なぜか電波法分野では公取委分野のような動きはない。

 いく度も力説しているように、私たちはあくまで総務省が省令を改正しPLCの型式指定をすること(行政処分の一種)に対して訴訟を起こしたのである。

 型式指定によりメーカーが製造・販売するPLCが2〜30MHzの短波帯に甚大な漏洩電界障害を与える蓋然性に差し止めを、また型式指定を与えた結果、現実に甚大な障害を与えている事実に対し取り消し訴訟を提起したのである。

 にもかかわらず、総務省のみならず東京地裁、東京高裁は、当該分野は改正行訴法よりも、個別実体法である電波法を優先して行政不服審査=電波監理審議会に異議申し立てをせよ、として私たちの提訴を却下したのである。

 これがPLC行政訴訟のこれまでの経緯である。

 国などの行政行為への国民からの対抗手段の最後の手段であるはずの裁判所への司法救済は機能不全状態にあり、到底、納得出来るものではない。


2.電波監理審議会への異議申し立て

 やむなく、私たちは行政訴訟と平行し、07年1月から電波監理審議会に異議申し立てを行ってきた。この2月8日までに都合3回の審査会が開かれすべてに参加してきた。

 ここでの最も重要な問題は、電波監理審議会への異議申し立てが、公平性、公正性の観点から大いに問題があることだ。

 果たして、このような審議会への異議申し立てへの審理が本当に司法に変わりうる、すなわち「準司法」たり得るかであるどうかが問われる。

 過去3回の異議申し立て審理でで散見された重要な課題を以下に示す。そこでは残念ながら、恐れていたことがすでに起こっている。

 第一に、型式指定なる行政処分を行った総務官僚が、姿を変えて審議会審査の行司役、判事の代役を務めているこである。

 私達は当初、行司役の西本主任審理官を忌避した。

 しかし、結果的に西本氏が判事役となってしまった。その西本氏だが、審理では何かにつけ総務省やメーカーの主張、言い分に配慮し、他方、私たちには裁判ではあり得ない、厳しい注文や要請をしている。

 たとえば総務省は、その場で十分返答可能な私たちからの質問、たとえば

@型式指定やその取り消しに際しての行政指導の有無、

A型式指定取り消しの原因、理由、

B短波帯関連の国際会議(RA07)での日本案支持国実態、

C両者による共同実験の可能性

などに、黙りを決め込んでいるが、西本氏は総務省に回答を一切求めていない。これ自体非常におかしなことだ。

 私が審理の中で、西本氏に「総務省が異議申し立てへの審理の場が本当に準司法であるというなら、もっと公平、公正に運営して欲しい」と言うと、「分かりました」と言いつつ、その直後、メーカーや総務省を援護する発言を行い傍聴者の失笑をかっていた。

 第二に、電波監理審議会の名の下で開催されている審理にもかかわらず、審議会の委員は誰一人たりとも、審議の場に参加していないことだ。

 これについて、海渡弁護士がことあるたびに西本氏に要請しているが未だ何ら実現していない。

 審議会委員とは一体何様なのであろうか? 役人しかいない審理がなぜ、「準司法」なのか? 私も審議会委員を多数やっているが、信じられないことだ。

 異議申し立て審理では、本来審議会の委員が判事役であるべきである。もちろん、それでも不服はある。

 実態は裁判で言えば「書記官」相当の役人が、実質的に行司役をしている。とんでもないことだ。

 第三に、たとえば第2、3回目の審査会では、数ヶ月かけ私たちが行ったPLC実験結果の発表を行ったが、西本氏は「できる限り発表は短く」、「10分程度」など、発表時間を極度に制限してきた。私が係わった科学技術関連裁判での証人の経験では、主尋問だけで最低1時間、多いときは4時間が与えられ、それと同時間の反対尋問の時間が与えられている。

 第四に、第2回目で私たちがPLCの漏洩電界がもたらす受信障害などの実験結果を審議会審理で発表した後、総務省は3ヶ月経った1月31日(到着は2月5日)に準備書面で反論してきた。

 だが、西本氏は私たちに到着後、3日後までに総務省書面への反論を出せと「叱責」したのである。これには只野弁護士ら弁護士も激怒した。言うまでもなく審議は書面のキャッチボールで成り立つ。総務省には3ヶ月、私たちには数日ではお話しにならない。


3.この間の成果

 ところで、PLC訴訟や異議申し立てはさまざまな場面で大きな成果、実績をあげてきたと言える。

 たとえば、ひとたび総務省に型式指定を受けたPLC32社、91機種のうち、すでに8社25機種の型式指定が取り下げられている。

 もっぱら、いくら総務省に理由、原因を聞いてもまともな返答がないが、これらは間違いなくPLC訴訟や異議申し立ての成果と推察できる。

 そんな中、3回目の審議で、私達の弁護士がシャープに対し「基準値を大幅に超えたノイズが出ていると言われても自分たちは国の定めた技術基準に基づいて製造・販売しているのだから、文句があるなら国に言ってくれということなんでしょうね」とつっこんだ。

 すると、メーカーはまさに図星という様子だった。総務省が一切返答しないのだからそう思われても仕方ないだろう。

 私たちの過去の多くの実験で分かったように、PLCが環境雑音より10〜30dBも高い漏洩電界をまき散らしている事実がある限り、PLCの取り消しは増え続けるに違いない。


 いつも感ずることだが、高度な科学技術がからむこの種の行政訴訟や異議申し立てを従来の司法なり準司法システムが敏速かつ客観的に審理、審議できるのかが問われる。